霧にけぶる県境の峠。そこに佇む平屋のドライブイン、かつては自販機で食事を提供する事が画期的だったオートレストランとして賑わいを見せていた。余所が最近になってレトロブームで話題になっているが、このドライブインはかつての忙しさが蘇っている訳ではない。長距離を走るバイクのライダーが主に利用し、休日には物好きな家族連れが遊びに来る。ここは『まんぷく亭』というところ。
まんぷく亭は老店主が一人で切り盛りしている。オートレストランなので食事は店主の家族や業者が用意したものを調理用のベンダーに入れて、後でホットサンドが冷たいだのうどんのお汁がないだの機械の不調を見て回るのが主だ。
日曜日にはキッチンカーで商売をしている夫婦が手伝いに来る代わりに敷地の一部で商売をしている。これも長い付き合いになっている。
しかしながら、今日は朝からそうで昼になっても深い霧が立ち込め近くに棲息する野生の鹿やキジバトの鳴き声も聞こえない。
「シゲさーん、お昼食べたのー?」
ドライブインの店内に甲高い中年女性の声が明るく響く。奥から腰の曲がった老婆がやって来た。そして、くしゃりと笑う。
「いや、食べとらんよ。今日は用意したうどんの残りがあるからね」
「もう、栄養偏るよ。娘さんにもちゃんと用意してって言われてるから食べてね」
「はいはい」
そこへ表のキッチンカーの方から男性が昼食をお盆に乗せて持って来た。
「博美ちゃん、シゲさん、はいどうぞ」
「ありがと、文登くん」
「おおきに」
キッチンカーの夫婦の中村文登と博美、ドライブインの店主の安東シゲがテーブル席を囲む。店内は幾つかのテーブル席と座敷、片隅には画面の焼けたシューティングゲームの筐体が置いている。
文登と博美は共に四十半ばだが若々しい。シゲは老いてはいるが矍鑠としている。
昼食を取りながら文登が入口のガラス戸の向こうを見つめる。
「こんな霧は初めてだね。長い事ここに通ってるけどお客さんも来ないし」
「そうだねえ、今日仕込んだ分は処分かなあ」
博美が溜息をつく。そこにシゲが皺だらけの顔の中にある眼をしぱしぱと瞬かせる。
「はあ、今日はもしかしたら〝おもがいさん〟が来てはるんかも知れんねえ」
「おもがいさん?」
「シゲさん、何それ?」
文登と博美が問い掛ける。シゲがコップの水を一口飲んで語り始める。
「おんまさんの頭の紐の事で、そこから〝旅人〟を意味するてウチのおじいさんが言うとったんやけどね。そのおじいさんのおじいさんの頃の大昔はここは茶屋で、霧の濃い日は旅の姿の鬼や、狸のあきんどに狐のお侍さんがうどんを食べに来とった言う話なんや」
「ええー、嘘だあー」
博美が苦笑いをする。
「まあ、昔話やからねえ」
シゲも笑う。
しかし、二人を余所に文登はガラス戸の向こうをジッと見つめていた。黙っていた文登の様子がおかしいと気付いた博美が声をかける。
「文登くん、どしたのさ」
彼は視線を外さずゆっくりと立ち上がる。
「何か居る……光が、揺れて、る……?」
「え……」
「何やろか」
二人も文登の言葉に立ち上がる。確かに何かが揺れて見える。
「出てみるよ……」
文登がゆっくりと入口を開けて表に出る。残る二人も続く。霧の向こう、坂の下にゆらりゆらりと光が揺れている。それが、徐々に近付くにつれて正体が明らかになった。
「文登くん……アレは」
「博美ちゃん……ナイト、西洋の騎士」
「……コスプレ?」
「あと、猫……が、服着て、二本足で、立ってる。騎士を背負って……」
「あらまあ」
三人の視線の先には甲冑を着た中世の騎士とそれを支える小さな同じく中世の時代の格好の二本足で立つ猫が居た。
光の正体は、甲冑騎士を支えている猫の長い尾の先に巻かれ掲げられていたカンテラであった。
三人の影に気付いた猫が止まる。三人も唖然としていたが、向こうもそうだろう。文登が恐る恐る声をかける。
「ハ、ハロー……」
『△……?』
「グーテンターク、ボンジュール、アニョハセヨ、オラ、ニーハオ……ダメだ……」
『△△△……?』
猫も呆然としながら騎士を見上げて文登たちを見つめる。敵意のある瞳ではないものの警戒心が宿っている。
すると、シゲが何かに気付く。
「あれっ、その人怪我してへんかね」
「えっ」
『△……△!』
よくよく見ると騎士の甲冑の脇腹から血が滲み垂れていた。
「猫ちゃん、その人の手当てせな、怪我を治すんよ、解る?」
年の功といったシゲがこの場を取り仕切り猫に向かいボディランゲージで腹を押さえて自身の店を指差す。猫が静かに頷いた。
◇◇◇
オートレストランの座敷に養生シートを敷いて甲冑騎士を静かに寝かす。背は高く痩身、腹部には目立った傷はないが隙間から刺されたのかも知れない。
三人がどうやって脱がすか思案したが、猫は手際よく前脚というより手に近いそれで甲冑を脱がしていった。
「わあ……」
「別嬪さんやねえ」
「女の人だったんだ……でも、耳が尖っていて、エルフ?」
甲冑の下には鎖帷子を纏った長い金髪の見目麗しい顔立ちの、耳が長く尖った、それこそ〝エルフ〟としか言いようがない美女が存在していた。
猫が彼女の上半身を裸にする。乳房が露わになり文登が驚いて顔を背ける。
「わ!」
「いや、今一大事だよ文登くん」
博美が溜息をつく中でシゲが傷痕を見る。
「何かで叩かれたんかねえ……痣になって棘が刺さったみたいになったあるわ、可哀想に」
『△△……』
豊かな乳房の下、脇腹に刺し傷というより鋭い棘付き棍棒で思い切り腹を殴られたような痣と傷が生々しく残っていた。
「ねえ文登くん、救急車呼んだ方が良くない?」
「うぅん、でもこのヒト……エルフのヒトは、保険証もないだろうし、抗生物質とか……明らかにこの世界の住人じゃないし、大丈夫なのかな」
二人が頭を抱える中、猫が服の脇のポーチのような袋を漁り手のひらに乗せた何かを見せる。
『△、△△……』
「魔法の液体かな」
「小瓶の、光る液体……この草は?」
「ありゃ、これはチドメグサやわ」
『△!』
少量の光る液体が入った小瓶と萎れた〝チドメグサ〟を猫が見せてシゲを見上げた。
「止血の薬草なんよ、それだけで何とかなるとは思わへんけど裏の茂みにあるから採って来るわ。博美ちゃんはお湯沸かして、文ちゃんは救急箱出してきて」
「は、はい」
シゲが機敏に動き猫は心配気にエルフを見つめる。お湯を沸かそうと台所に向かおうとした博美が声をかける。
「大丈夫よ、猫……ちゃん。あなたのご主人……さんは、助けるから……」
『△……』
ふっ、と博美は後ろから猫を撫でようとしたが手前で止まった。猫の悲し気な瞳は人間のそれと何ら変わりのないものだと気付いたからだった。
◇◇◇
私はぼんやりとした意識から覚醒しつつあった。身体が涼しい、鎧は……?
『ここは、何処だ?』
『気が付いたかリリュウ! 心配かけやがって』
脇を見れば従者である獣人のミヒトがその猫の顔を向けて覗き込んでいた。
どうやら、私は寝ている。身体を起き上がらせると脇腹に痛みが走った。
『うあ』
『お前な、単騎で敵に突っ込む奴があるか! 俺がどれだけ……この』
『す、済まん』
『棘棍棒で殴られて吹っ飛んだお前を必死に逃がして背負って彷徨ってここに辿り着いたんだ』
『此処?』
私が天井を見上げると恐ろしい眩しい縦ランプに眼をやられた。
『うわあっ、何だこれ!?』
『凄ぇだろ、多分〝世界の果て〟に来ちまったんだぜ』
『はぁ?』
そこへ足音が聞こえてきた。
「×××! ××……×××」
見ると不思議な格好の老婆が居る。何かを言っているが解らない。すると、血止めの薬草を持って来た。そうか。
『手当をしてくれたか……』
『お前の命の恩人だ。良いばあちゃんだぞ、治癒薬が残り少なかったけど薬を塗った薬草は新鮮で良く効いた。都に戻ったら本格治療だな』
『ああ』
私は周りを見渡す。鎧は綺麗に磨かれて脇に置かれている。剣も。ご丁寧に乳房は布で巻かれている。そんな気遣いは良いのだが、とても親切なひとに介抱されたのは有難い。
そこへ別の中年男性がやって来た。飲み物らしきものを持って笑っている。老婆の息子だろうか。彼が器に入ったあたたかい飲み物を渡してきた。何だろう、あっ、動物の乳だ。いいにおい……。
私はゆっくりと飲む。ミヒトにも器が渡される。
『俺にはぬるいのだな』
『私は熱いものだ、美味いな……腹があたたまる』
彼が懐から黒い板を取り出した。表面が光っている……魔具だろうか。それを口にかざして。
「○○○○」
板を私に向ける。すると――。
≪□□□□!≫
『うわっ!』
喋った……彼が何か仕草をする。これに、向かって、喋れ、か?
『私は、リリュウ、だ』
≪ピー!≫
何だこれは……尋問か何かだろうか。彼が頭を振ってこの建物の奥へと去って行った。ミヒトがにやにやと囁いてくる。
『リリュウ、俺もそうだった。尋問じゃないぞ、ここの魔具かなんかだろ』
『そんなものか……いや、状況を把握したい。ここが何処で、今は何時で、どうやって辿り着いて、どうやったら帰還出来るか』
ミヒトに訊ねると彼が指を折りながら考える。
『ここは解らん。三つ月から四日は経っている筈だ。お前を手当てしながらルペの沢を過ぎた頃に深い霧に包まれたんだ。あの沢の古い話じゃ霧の日は〝異世界〟に通じるとか』
『御伽噺は止せ、はぁ……しかし、あの〝流れる絵の箱〟を見るとそう思えるな』
そこで私の腹が、ぐぅ、と大きく鳴った。夢ではない、現実だ。
先程の男性ともう一人別の女性がやってきた。彼の妻だろうか、笑顔で何かを持って来た。何かを喋っているがこれも解らない。
「◎◎◎! ◎◎……」
彼女が少し泣いている。どうやら、老婆や男性、そしてこの女性にたいへん心配をかけてしまったようだ。
持って来たものを私の前に置いた。何だろう。黒い砲弾のようなもの。そして、これは……スープか?
ミヒトが私ににやにやと笑いかける。
『美味かったぜ、〝ミススリュ〟と〝オヌグリ〟っていう食いもんだ。ばあちゃんが教えてくれた』
『何っ、言葉が解ったのか』
『いや、単語は聞き取りづらいし何度も教えて貰ってやっとだがな。野菜の入ったしょっぱいスープがミススリュ、多分もちもちした豆粒を固めた塊がオヌグリだ。黒いのはヌリというやつらしい』
『ほほう』
私の腹が再び、ぐぅ、と鳴った。泣いていた彼女も笑った。もてなしを有難く頂こう。しかし、何だこの二本の棒は……。
『さ、匙をくれ』
私が手真似すると鈍い色の匙を彼女が持って来た。見事な装飾だ……いかんな、飯に集中しよう。
ゆっくりとスープを掬い飲む。
『……うまい!』
『うるせえ! 大声で言うな』
ミヒトが苦笑いする。私は夢中で飲む。何だこの旨味は。野菜の甘さとスープの塩辛さが見事に合致して手が止まらない。私たち以外の三人が笑う。おそらく意志は伝わったのかも知れない。野菜も見慣れたものに近いものもあれば丸い形の解らないものもある。噛むととろりと解れる……ああ、美味い。
私はオヌグリを持つ。ほんのりとあたたかい。ええいままよ。齧りつくと、ねとねととした食感……ちょっと気持悪いが噛んでいる内に甘い味が口いっぱいに広がって鼻に抜ける芳醇な香り、これは磯の香りもする!
驚きだ……うまい、うまい。
一気に食べ終えると女性が水を器に汲んだ。つ、つめたい! 信じられない。
『美味かった、御馳走になった。有難う』
私の言葉は通じないだろうが、気持は通じるだろう。女性が違う光る板を持って来た。筆らしき棒。板に書くと絵が生まれた……描かれたのは私らしき姿のエルフ。もう一人の女性を描いて、乳を出した姿、裸、湯浴みか。しまったな、身を清める事なくここまで来ているだろう。
「◎◎◎? ◎◎◎!」
『おそらく風呂か、厚意にあずかろう』
異国、異世界かも知れんが、風呂があるのは有難い。いつだったか、火山の国で入った湯は熱かったな。
◇◇◇
ドライブインにはトイレもあるが、仮設の風呂も設置されている。リリュウと博美が風呂から上がる。
「お風呂頂きましたー」
「はーい、って……その服は」
博美の声に文登が振返ると、リリュウは中村夫婦が数年前に参戦した夏フェスのシャツと短パンを着ている。背が高くスタイルの良いリリュウには、ぱっつんぱっつんでつんつるてんだ。リリュウ本人は不思議そうに自身を見ている。
「ルルウさんの服はね、私のおさがり」
「ええっ! 名前解ったの!?」
「いや、ボディランゲージだから怪しいかも。私の事は〝ヒルゥミ〟って。絵で描いて会話したよ」
「流石は漫研」
そこへリリュウが博美の肩を叩く。
「ヒルゥミ、▽▽▽?」
「えっと、猫ちゃん? にゃーん?」
リリュウが頷く。
「シゲさんのところ……器用だね」
三人の視線の先には座敷のテレビを胡座をかいてシゲと観ているミヒトが居た。リリュウが横から覗き込む。
『それは〝遠見の鏡〟みたいなものか』
『みたいだな。木で出来た大聖堂が映ってる……やっぱり異世界じゃないかな。こんなデカい聖人像は見た事ねえや』
大仏を特集した紀行番組を観ていた二人を微笑ましく文登たちは見守っていた。シゲが文登に声をかける。
「お姉さんと猫ちゃん、お握りとお味噌汁だけやったら足らんでしょ」
「そうですね、お昼の余りなら……」
「文登くん、手伝おっか」
「うん」
やがて、表のキッチンカーから食欲をそそる香辛料のきいた香りが漂ってきた。
リリュウとミヒトの胃が、ぐぅ、と鳴る。既に胃袋は掴まれてしまったようだ。シゲに促され二人がテーブルに移動する。
「お待たせ!」
文登がお盆に料理を乗せて持って来た。テーブルに皿を置くと二人は顔を突き合わせた。
『……リリュウ、これ食いもんか?』
『……失礼だぞミヒト、しかし……においは良いのだが、見た目が』
『だろう?』
博美が魔法瓶とコップに入った水、スプーン、そして瓶に入った赤い福神漬けを持って来た。皿の上の白米に福神漬けを添えると博美がリリュウにゆっくりと幼子に話しかけるように料理名を言う。
「カレー、ライス」
『クァレー、ルイシュ?』
「カレー」
『クァレーか』
「辛いかも、辛い、ホット、ヒー!」
『何だそれは。ヒー?』
『なあ、覚悟決めようぜ』
『そうだな、頂こう』
リリュウがスプーンを、ミヒトは子供用のアニメキャラが印刷された小さなスプーンを使いカレーを掬う。
パクリ、と一口。そして咀嚼する。しばらくして二人は俯いて涙をポロポロと流し始め叫んだ。
『か』
『か』
『からーい!!』
『うう、からい、なんだこれ、毒だろ』
二人は水を一気に飲む。文登や博美は苦笑いしてる。
「二人ともカレーだけ食べてたね」
シゲが二人に水を新たに継ぎながらジェスチャーをする。
「お米と一緒に食べなあかんよ」
『リリュウ、何の動作だろっておい』
『……』
既にリリュウは米と一緒にカレーを掬い口に運んで食べていた。閉じていた眼を開ける。
『うまい!!』
『おおぅ……』
『このクァレーだけじゃ辛いんだ。この蒸かした白い豆粒が甘くて辛さを中和する。それが癖になる美味さだ』
『本当かぁ? むぐ……うん、うまい』
『だろう?』
パクパクとカレーライスを食べる二人を見つめながら文登たちが笑う。シゲが夫婦に問いかける。
「二人とも美味しそうに食べはるわ。文ちゃんも博美ちゃんも作った甲斐があるやろ」「いやー、嬉しいですけどね。まだ鍋にはいっぱい……」
「文登くん、また後でいいじゃない」
空の皿だけになったテーブルから立ってすっかり腹の膨れたリリュウとミヒトが礼を言う。博美が握手をする。
『有難う、ヒルゥミ』
博美がこちらの世界を紹介する。
「こっちが、文登」
『フュ、フュミト』
「この人はシゲさんね」
『シィゲサン』
「お土産も持って行って! えっと店のチラシだけど……まんぷく亭。こっち、店の看板も見て!」
『綺麗な紙だ……つるつるして……マプクテイ……屋号かな』
「でも、ルルウさんたち帰られるのかな……」
表に出ていた博美とリリュウに、ざあっと強い風が撫でた。同時に霧が立って来た。何もかも包む白い霧が。ミヒトが荷物と甲冑をまとめて持って来た。文登とシゲも表に出る。
『リリュウ! 多分、この霧に乗れば帰れるぜ』
『根拠は』
『勘だ!』
『まったく……ヒルゥミ、フュミト、シィゲサン、また会えたら会おう!』
言葉は解らずとも三人は手を振った。
霧の向こうに二人が消えていく。
◇◇◇
リリュウは馴染みの酒場に来ている。
帰って来た日、霧の峠を抜けるとルペの沢だった。都に戻ると二人は死んだものと思われて周りからは腰を抜かされた。
「ジノ、今日の再現は悪いが甘過ぎるんだ、刺激が足りない」
厨房に居る彼女の脇に立つ鮫の魚人の料理人は困った顔を見せる。
「そうは言ってもなあ、馴染みのお前さんの頼みでも世界の果てだか異世界の料理なんて信じられねえし、あったとしても食材や調味料も違うだろうからなあ」
「クァレーはそんなに難しいか……」
「ミススリュとオヌグリはお前から及第点を貰ったからウチも商売繁盛だよ」
「あれも完璧じゃない。あの甘い粘り気のある豆は何だ……解らん」
「まったく……」
そこに酒場の扉が勢いよく開いた。
「おーい! リリュウ、居るか!?」
「どうしたミヒト、ひと月無理を承知で休みが欲しいと言っていたが」
ミヒトが笑いながら厨房からリリュウと料理人を引っ張り出す。机の上に色々と荷物を並べる。
「行って来た! 会えたんだ! また、ばあちゃんやヒルゥミやフュミトに会えたんだ!!」
「何っ!?」
リリュウが驚愕して眼を見開く。自慢気にミヒトが胸を張る。
「ルペの沢でずっと野営していた。霧が出るなんて賭けだし、出たとしてもまたばあちゃんたちのところに行けるとは思わなかったけどな、神は見てるもんだな。あの時と同じ白い霧が出てきて歩いていった。あったぜ、〝マプクテイ〟が」
「はああぁぁ……」
ミヒトの話にリリュウが脱力し料理人が彼女を支える。
「相変わらず言葉は解らないけど、色々ともてなしてくれて、食わせてくれて色々と持たせてくれた」
机の上には色とりどりの金属の缶詰、スパイスが詰まった瓶、そして彼らには見慣れない不思議な道具。
ミヒトが板を取り出した。
「使い方が解るように、これ!」
博美がわざわざ用意したであろう銅版画やセラミック印刷で彼女の漫画タッチで描いたイラストの道具の使い方や料理の手順があった。
そこに博美の漫画もあった。それを見たリリュウが俯く。
「ヒルゥミの絵だ……懐かしい、ジノ見てくれ……これが、私。隣がヒルゥミ、フュミトにシィゲサン、ああ、ミヒトも居る……」
「リリュウ、お前泣いてるのか?」
リリュウが涙を拭う。
「騎士が簡単に泣くか! ミヒト、この筒にはクァレーの絵が描かれている、まさか……」
「リリュウ、そのまさかだぜ」
ミヒトが笑う。
――数十分後。
異世界の酒場の厨房から胃袋を掴むような食欲をそそるカレーの良い香りが広がった。からくて、うまい。今度は彼らの手で再現し、この世界の名物になる日はそう遠くないだろう。
(初稿:2022/12/17)
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