クースケは空想ヘキがある。
いつも、おさがりのパンタロンにしましまシャツで、もじゃもじゃ頭を抱えながら歩いているもんだから、どぶにはまったり赤信号を見ずに渡って車のドライバーからどなられたりしている。
クースケは言う。
「ぼくには未来が見えるねん、未来が頭の中にどんどんどんどん入ってきよんねん。近い内に青いゾウが降ってくるで」
そんなことを言うクースケをみんなは馬鹿にしている。
みんなはクースケをいじめたりはしないがいつもからかっている。
授業中、センセイが指をさす。
「クースケ! 何でお前は黒板も見ず板書きも取らへん、そんなんでマトモに仕事つけると思うんか!」
「でもセンセ、未来が見えるんです。勉強しても終わるんです」
「ろ、廊下に立っとれェ!」
水の入ったバケツを下げて廊下に立つクースケをみんながクスクス笑ってる。
放課後。ガキ大将のヒサオくんが公園のジャングルジムの上からクースケを見下ろして言った。
「やい、クースケ。おれの未来を見てみんかい。おれは今からここから飛ぶぞ、どうなるねん」
「あかんて、今すぐ下りてぇなヒサオくん。ケガするで」
「アホか、だれが飛ぶねん」
その直後、ジャングルジムはバラバラに折れて崩れてヒサオくんは大ケガをした。救急車が来て警察も来たけど、それでも、みんなはクースケのことを信用しなくて大人にはだまっていた。
ボクは壊れたジャングルジムから離れたところのシーソーにクースケと乗っている。
ぎっこん、ばっこん、ぎっこん、ばっこん。
黙ったまま夕陽が団地の向こうに影を落とすまで。
クースケが口を開いた。
「タカミチくんは、ぼくと遊んでくれるねんな」
「……クースケは変な子ぉやけどトモダチやで」
クースケがシーソーから下りる。ボクはごちんと落ちた。ボクはそのまま夕陽を背にした影の顔のクースケを見つめていた。
「タカミチくん、ぼくの頭大きなってるやろ」
「……髪伸びたからちゃう」
「ちゃうねん、未来が頭から出ようとしてるねん」
「青いゾウも?」
「せや、青いゾウも、大仏さんぐらいのれきだいそうりだいじんのドウゾウも。炎の雨も吹き出す水もアラシもカミナリもぜんぶや」
影になったクースケの顔は笑っているように見えた。
◇◇◇
それから一週間。
「クースケー! アンタ、ジッとしてるんやでー!」
『今、少年の母親と思しき女性がヘリコプターから声をかけています、ああ、また少年の頭が大きくなりました』
ボクはテレビの中で、家を突きやぶって大きくなったクースケの頭を中継している番組を見ている。
クースケの身体だけはそのままで頭だけが、どんどんどんどん、ふくれ上がってビルよりも山よりも大きくなっていった。
もうクースケに意識はない。テレビで専門家のセンセイたちが、ああでもないこうでもないとつばをとばしている。
『ああっ、今、少年の頭が破れました!』
「クースケー!!」
クースケの頭からは青いゾウが一頭、二頭、三頭、それどころか何十頭、何百頭、何千頭、何万頭と飛び出ていった。
――青いゾウも、大仏さんぐらいのれきだいそうりだいじんのドウゾウも。炎の雨も吹き出す水もアラシもカミナリもぜんぶや。
ボクは世界の終わりが未来だったのか、未来が終わりなのか考えながら外に飛び出て、空に漂う青いゾウの群れを眺めていた。
(初稿:2026/06/26)
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